コラム更新日:2026.08.27

近年、「医師の働き方改革」や慢性的な人手不足への対応策として、医療現場におけるAI(人工知能)の活用が急速に進んでいます。中でも、文章作成や要約、データ分析を得意とする生成AI「Gemini」は、医療従事者の事務負担を劇的に軽減するツールとして大きな期待を集めています。

一方で、機微情報を扱う医療現場において、「具体的にどの業務までならAIに任せられるのか」と悩まれる担当者の方も多いのではないでしょうか。本記事では、Geminiを業務活用するためのセキュリティ知識や医療ユースケースについて解説します。

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執筆・監修:TSクラウド編集部

Google Cloud の「プレミア認定」を保有する、Google Workspace 正規販売代理店です。業界歴 17 年、延べ 3,500 社以上の導入支援実績( 2026 年 2 月時点)に基づき、Google Workspace の最新機能から活用術、DX推進に役立つノウハウを専門的な視点で解説しています。

※情報は記事公開(更新)時のものです。Google Workspace の仕様や価格は変更される場合があるため、最新情報は必ず公式ページでご確認ください。

※名称変更に関するお知らせ: NotebookLMは、2026年7月に「Gemini Notebook」に名称が変わりました。メディア内では旧名称が利用されていることがあります。その場合は、Gemini Notebookに読み替えてご確認ください。

目次

医療現場で生成AIの活用が期待される背景と課題

超高齢社会や2024年4月の「医師の働き方改革」により、医療現場では業務効率化が急務です。こうした中、一部業務を生成AIに任せ、医療従事者が「患者と向き合う時間」を創出する取り組みが注目されています。実際、医師の約4人に1人(24.8%)が診療中に生成AIを活用した経験があるというアンケート結果もあります。

一方で、導入の大きな壁となるのが情報セキュリティです。医療データは機微な「要配慮個人情報」であるため、AIの特性を十分に理解して扱う必要があります。無理解な利用は、ハルシネーション(AIの嘘)への見落としだけでなく、データの外部流出という深刻なリスクを招く原因となります。

Gemini(Google)の基本的なセキュリティ対策

Googleが提供する生成AI「Gemini」には、個人利用に適した無料版のほか、企業・組織向けの有料版(Google Workspace版のGemini )があります。医療機関で業務利用する場合は、強固なセキュリティ基盤を持つ有料版の利用が不可欠です。

ここでは、厚生労働省、総務省・経済産業省がそれぞれ定めた医療情報に関する2つのガイドライン(通称:3省2ガイドライン)に規定されているセキュリティ要求事項に触れながら、有料版Geminiの代表的な機能と特長を2つ紹介します。

データ再学習の防止

3省2ガイドラインでは、患者の機微な個人情報を適切に管理・保護し、意図しない外部流出や目的外の二次利用を防止するための安全管理措置を重視しています。クラウドサービス等の外部委託にあたっては、預けたデータが他用途へ流用されない仕組みであるかを事前に確認しておく必要があります。

有料版Geminiでは、以下のようなデータ保護が明示されています。

  • データの非学習保証:入力されたプロンプトや生成された回答などのデータが、Googleの基本モデルの学習に許可なく使用されることはありません
  • 組織外への非開示:ユーザーの会話内容やアップロードしたデータが組織外に開示されることはありません
  • スタッフによる閲覧防止:Googleのスタッフによる無断の閲覧は行われません

監査ログの保管

3省2ガイドラインや厚生労働省の「医療機関におけるサイバーセキュリティ対策チェックリスト」では、技術的安全管理措置として「アクセスログの適切な管理・保管」や「アカウントごとのアクセス権限管理」が明確に求められています。

万が一、不適切な操作や不正アクセスによるインシデントが発生した際、速やかに原因調査や影響範囲の特定が行えるトレーサビリティ(追跡性)を確保しておくことが極めて重要です。

法人向けのGoogle Workspaceでは、管理コンソール(管理者が設定を行う画面)を通じて、誰が・いつ・どのようなGemini機能を利用したかを詳細に追跡・監視できる監査ログ機能が備わっています。また、管理者は「最小権限の原則」に基づき、 特定の部署やユーザーグループに限定してGeminiの権限を付与することができます。

ログ管理体制を構築しておくことは、内部不正の抑止力となるだけでなく、有事の迅速な初動対応を支え、医療機関が求めるガバナンス要件を満たす上での重要なアプローチとなります。

医療現場でどこまで使える?医療活用におけるGoogleのポリシー

Geminiは、科学的コンセンサスに反する情報を生成しない旨がポリシーに明記されており、以下も含まれます。

「確立された科学的・医学的コンセンサスやエビデンスに基づく医療慣行と矛盾する医療情報。」は生成しない

 

引用:Gemini「 Gemini アプリのポリシー ガイドライン

前述したように有料版Gemini(Google Workspace)であれば、入力したプロンプトがAIモデルの学習に使用されたり、人間によってレビューされたりする恐れはありません。しかし、Googleは以下の使用を禁止しています。

リスクの高い領域(雇用、医療、金融、法律、住宅、保険、社会福祉など)において、個人の権利に大きな悪影響を及ぼす意思決定を人間の監督なしで自動的に行っている。

 

引用:Google「生成 AI の使用禁止に関するポリシー

つまり、AIの提案はあくまで参考意見に留め、最終的な判断や決定には必ず医療従事者が介在する必要があります

医療現場の働き方を改善するGeminiの強み

セキュリティが確保された環境であれば、Geminiは医療従事者の業務負担を大幅に削減する心強いパートナーとなります。ここでは、他のAIツールと比較した際のGeminiならではの主な強みを3つ解説します。

数十万文字を一括処理できる圧倒的な大容量

最新のGeminiモデルは、一度に100万トークン(日本語で数十万文字)に及ぶ長文のデータを一度に読み込んで処理することができます。 これにより、数百ページに及ぶ学術論文、複数の論文データを一度にアップロードして「これらの研究に共通する知見は何か?」と分析させたり、複雑な診療ガイドラインのPDFを丸ごと読み込ませて特定の治療法に関する記述を瞬時に探し出したりすることが可能です。

動画や音声を直接解析できるマルチモーダル能力

Geminiは文章や画像だけでなく、動画や音声データを直接アップロードして解析できる優れたマルチモーダル能力を持っています。たとえば、看護手技の研修動画を要約したり、カンファレンスの録画ファイルから議事録を作成したりすることが可能です。これはGeminiならではの際立った強みです。

日常業務に溶け込むGoogle Workspaceとのシームレスな連携

多くの医療機関ですでに導入されているGmailGoogle ドライブGoogle ドキュメントGoogle スプレッドシートGoogle Meetといったツールに、Geminiがシームレスに溶け込んでいます。

たとえば、Google ドキュメントでの研究プロトコル作成やGoogle Meetでの多言語遠隔医療など、アプリ上からGeminiを呼び出すことで、業務の効率化とコミュニケーションの高度化を同時に実現できます。

医療現場におけるGeminiの医療ユースケース

実際に、医療現場のどのようなシーンでGeminiが活用できるのか、具体的なユースケースをご紹介します。

業界動向・規制情報の要約

医薬品の改訂情報や、厚生労働省等から発信される複雑な通知、頻繁に改定される医療ガイドラインなどをGemini Notebook(旧称 NotebookLM)に読み込ませることで、自院に関係する重要な変更点を瞬時にリストアップし、スタッフ間で共有しやすくなります。

研究・論文作成のサポート

海外の最新の医学論文を日本語に翻訳・要約させたり、自らが執筆する論文の構成案や表現のブラッシュアップをサポートさせたりと、研究活動の効率化にも貢献します。

医療研究・院内ナレッジの活用

業務プロトコルや引き継ぎ資料をGoogleドライブに集約しGeminiに参照させたり、Gemini Notebookに読み込ませたりすることで、「電子カルテの操作手順は?」や「夜間・休日の連絡フローは?」といった日常的な問い合わせに対し、スタッフがマニュアルを開くことなく迅速かつ的確な回答を得られる環境が構築可能です。新人スタッフの教育コスト削減にも繋がります。

医療マーケティングの高度化

地域の患者に向けた内覧会の案内をはじめ、ホームページやSNSに掲載するコラム、予防接種の呼びかけといった広報文章の作成において、ターゲット層の年代や悩みに寄り添った親しみやすい原稿を短時間で作成可能です。これにより、広報・マーケティング業務の大幅なスピードアップが期待できます。

医療文書の作成・要約の補助(事務負担の軽減)

紹介状(診療情報提供書)の作成支援や、退院時サマリーの自動要約作成といった、医療文書の作成・要約のアシスタントとしてGeminiの応用が期待されています。ただし、たとえ非再学習が保証された法人向けGeminiであっても、「特定の患者のカルテ内容や個人が推測できる情報」をそのままプロンプトに入力することは、個人情報保護法違反(無断での第三者提供・海外移転)や守秘義務違反に抵触するリスクを排除できません。こうした個人情報を安全に扱うには、「データの匿名化」や「マスキング」などのデータ加工技術を組み合わせる必要があります。

専門的な医学用語が多く含まれる文書を、患者やそのご家族向けに「平易で分かりやすい表現」へ書き直すこともGeminiの得意分野です。ただし、出力した内容を、医師のチェックを介さずに用いることは、サービスの利用規約上でも固く制限されています。

※AIによる情報のチャットボット化やアナログ作業の負担軽減を実現した事例を以下でご紹介しています。

Gemini技術を活用した国内外の医療高度化事例

Geminiそのものの直接利用にとどまらず、その高度な言語処理やマルチモーダル解析機能をシステム基盤として組み込むことで、医療業務の負担軽減や支援の高度化を実現する事例が国内外で広がっています。

  • 九州大学病院(日本)
    ユビーの提供するAIソリューションを通じてGeminiのマルチモーダル能力を活用し、フォーマットの異なる紹介状(診療情報提供書)の要約と様式標準化を自動化。これにより、入院サマリーを作成する医師の業務効率を54%向上させています。
  • シアトル小児病院(米国)
    Geminiを活用したAIアシスタント「Pathways Assistant」を開発・導入。何十万ページにおよぶ治療プロトコル等から医師が必要な情報を数秒で自然言語検索・要約し、資料探しの時間を大幅に短縮しています。
  • サウジアラビア保健省(Sehhatyプラットフォーム)
    国家規模の医療アプリ「Sehhaty」にGemini活用の「AIヘルスコーチ」を搭載。患者の病歴に応じた健康指導を行うほか、診察会話の自動文字起こし・臨床要約により放射線科のレポート作成時間を87%削減しました。
  • エルサルバドル政府(DoctorsSVプラットフォーム)
    遠隔医療基盤「DoctorsSV」にGeminiを統合。リアルタイムなカルテ要約や診断アシスト、臨床リスクのアラート通知などを行う多機能エージェントとして活用されています。

医療機関とクラウド事業者の役割分担

医療現場でGoogle WorkspaceやGeminiをはじめとするSaaSを利用するためには、クラウド事業者(Google)の対策だけでなく、医療機関(導入側)の運用環境や方針、セキュリティリテラシー対策もセットで行うことが肝要です。

管理項目 Google側の提供範囲(無料版は対象外) 医療機関(導入側)が実施すべき対応
データ学習 入力データの非学習保証 法人向け契約の締結
暗号化・インフラ 保存時・通信時の暗号化処理 院内ネットワークの分離・接続端末の管理
アクセス管理 IAM(詳細なアクセス制御機能)の提供 多要素認証(MFA)の必須化、閲覧権限の設定
運用ガバナンス 第三者認証・ホワイトペーパーの提供 院内利用ルールの策定、職員向けセキュリティ教育

クラウド事業者(Google)の責任範囲
インフラやプラットフォーム全体の強固なセキュリティ(通信やデータの暗号化、物理データセンターの保護、第三者認証に基づくコンプライアンス遵守など)はGoogleが責任を持ちます。

医療機関(利用者)の責任範囲
提供された安全なシステムを「どう設定し、どう使うか」は医療機関側の責任となります。 たとえば、以下のような事項は医療機関側で適切に対処しなければなりません。

  • DLP(Data Loss Prevention:情報漏えい防止機能)の設定:特定の医療データが誤ってプロンプトに入力された際、警告を表示したり入力をブロックしたりするルールを管理コンソールで有効化する。
  • アクセス制限の構築:病院から支給された正規の端末や、院内の特定のIPアドレスからのみGeminiにアクセスできるようにし、外部や私物スマートフォンからの「シャドーAI」を防ぐ。
  • 利用ガイドラインの策定:「患者の生年月日や氏名、IDは直接入力しない」「一度にアップロードしてよいドキュメントの基準」などのルールを定め、ISMS等の規程に反映させる。

このように、「高度なセキュリティ設定」と「医療業務」を連動させることで、人の注意だけに頼らない多層防御のAI活用が実現します。

医療現場では、システムと組織体制の「両輪」で安全なGemini活用を

生成AIの技術は急速に進歩しており、医療分野においてもその活用に向けた環境や制度の整備が着々と進んでいます。なかでも日進月歩の進化を見せるGeminiを業務にいち早く取り入れることは、今後さらに加速する「生成AIを活用した医療の高度化」へスムーズに対応していくための重要な一歩となります。

きたる次世代の医療提供体制に向けてGeminiを安全かつ効果的に導入するには、システムと組織体制という「両輪」をしっかりと機能させることが不可欠です。その鍵は、以下の3ステップを確実に踏むことにあります。

  1. 法人プランの選定:データ保護が保証された法人向けプランを契約する。
  2. 管理コンソールの適切な設定:組織単位でのアクセス制御、DLPルールの構築。
  3. 従業員教育:AIの特性と入力ルールを理解させる。

これらシステム(強固なセキュリティ基盤)と組織体制(リテラシー教育やルール運用)の両輪をしっかりと回し、安全な環境でGeminiの恩恵を最大限に引き出していきましょう。

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