コラム更新日:2026.03.27

深刻化する人材不足と業務負荷の増加を背景に、自治体における DX 推進は喫緊の課題となっています。その切り札として注目を集めているのが「生成 AI」です。総務省のガイドブックが随時改訂されるなど、国も強力に導入を後押ししていますが、セキュリティや IT リテラシーの壁に直面し、導入に踏み切れない自治体も少なくありません。

本記事では、自治体における生成 AI 導入の現在地、よくある課題とその解決策、さらにGoogle Workspace を活用して業務効率化を実現した長野県佐久市などの事例を交え、失敗しない生成 AI の導入ステップをわかりやすく解説します。

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執筆・監修:TSクラウド編集部

Google Cloud の「プレミア認定」を保有する、Google Workspace 正規販売代理店です。業界歴 17 年、延べ 3,500 社以上の導入支援実績( 2026 年 2 月時点)に基づき、Google Workspace の最新機能から活用術、DX推進に役立つノウハウを専門的な視点で解説しています。

※情報は記事公開(更新)時のものです。Google Workspace の仕様や価格は変更される場合があるため、最新情報は必ず公式ページでご確認ください。

目次

自治体業務の常識が変わる?生成 AI 導入の現在地と総務省の指針

現在、自治体における生成 AI の導入が進んでいます。かつてはセキュリティへの懸念から慎重な姿勢が目立ちましたが、現在は国が積極的に導入を後押し。総務省では「自治体における・AI活用・導入ガイドブック」を策定するなど力を入れています。

また、総務省の調査(令和 6 年度)によると、生成 AI の導入状況について、都道府県の 87.2 %、政令指定都市の 90.0 %がすでに「導入済」となっています。一方で、その他の市区町村では 29.9 %に留まっており、自治体の規模による「導入格差」が顕在化しているのが現状です。

「自治体における・AI活用・導入ガイドブック」が示す活用推奨領域

総務省のガイドブックでは、生成 AI は「あいさつ文の作成」「企画書案の作成」といった文章作成のほか、「議事録の要約」や「法令・マニュアルの検索」、さらには「マクロや VBA などの作成」まで、幅広い業務での活用が推奨されています。

特に、あいさつ文の作成業務においては、1件あたりにかかる時間が 60 分から 20 分へと40分の削減(66%減)が見込まれるなど、大幅な業務効率化が期待されています。

セキュリティの壁を越える: LGWAN 環境とクラウド AI の共存

自治体でクラウド上の生成 AI を利用する際、大きな懸念となるのがセキュリティ対策です。総務省のガイドラインでは、情報資産の機密性に応じたクラウドサービスの利用範囲が示されており、ISMAP 登録サービスの利用や適切なアクセス制御が求められています。

近年では、栃木県足利市が自治体特有のLGWAN (総合行政ネットワーク)環境から「ローカルブレイクアウト」を用いて、安全に Google Workspace などのクラウド AI へ接続する構成を構築した事例もあります。これにより、強固なセキュリティ要件を担保しつつ、最新の生成 AI を活用することが可能になっています。

自治体 DX を阻む「3つの壁」

生成 AI の導入が全国的に進む一方で、自治体特有の課題も浮き彫りになっています。多くの自治体が躓くポイントは、大きく分けて「安全性・活用・組織」の 3 つの壁に分類されます。

1. 安全性の壁:個人情報保護と著作権リスク

自治体は住民の個人情報を扱うため、情報漏えいリスクへの対応が不可欠です。生成 AI の導入においては、入力したデータが AI の学習に利用されない(オプトアウト)仕様のサービスを選定することが非常に重要です。

また、プロンプトに個人情報を入力しないようルール化し、生成物が著作権などの第三者の権利を侵害していないか、出力結果を最終的に人間が確認する体制の整備が求められます。

2. 活用の壁:定型業務を効率化

システムを導入しても「日々の業務が多忙で AI を触る時間がない」「どう使えばいいかわからない」と現場で定着しないケースも散見されます。しかし、生成 AI は定型業務を代替し、住民対応など職員が本来注力すべきコア業務の時間を生み出すための解決策です。

まずは議事録作成や問い合わせ対応など、効果がすぐに出やすい定型業務から活用を始めることが推奨されます。

3. 組織の壁:IT リテラシー格差を解消する教育

多くの自治体では、職員間の IT リテラシーのばらつきや専門人材の不足が DX 推進の大きな障壁となっています。この壁を乗り越えるためには、生成 AI を利用する前に研修講座の受講をルール化したり、即時利用可能なプロンプト集を提供したりするなど、全職員が AI を使いこなせるよう継続的な教育体制・マニュアルを整備することが重要です。

Google Workspace × 生成 AI による自治体 DX

現在、さまざまな生成 AI のサービスが登場していますが、Google Workspace を導入すれば、Gmail やGoogle ドキュメント、Google スプレッドシートなどのツールに加え、Gemini や NotebookLM といったツールによる強力な生成 AI 環境を構築可能です。

Google Workspace with Gemini: 文書作成・メール対応を劇的に効率化

Google ドキュメントや Gmail といった使い慣れたアプリ上で直接 AI を呼び出せる Google Workspace with Gemini は、日常業務のスピードを劇的に底上げします。

たとえば Google ドキュメントでは、会議の走り書きメモから「決定事項とネクストアクションを抽出して表形式でまとめて」と指示するだけで、即座に整理された議事録案が出来上がります。

Gmail においても、住民からの複雑な問い合わせに対して「丁寧な案内を 3 パターン作成して 」と依頼するなど、ブラウザのタブを切り替えることなくシームレスに作業を完結できます。

このツール間を移動しない操作性が、コピペミスのリスクを排除し、職員が本来注力すべき判断業務に思考を集中できる環境を提供します。

AppSheet 連携: 現場の「困った」をAIと一緒にノーコードで即解決

Google Workspace に含まれる AppSheet はプログラミング不要でアプリを作れるツールです。Gemini など生成AI と連携することによってアプリ開発のハードルはさらに大幅に低減されるでしょう。たとえば、生成AI と対話してアプリの構成や必要な数式の提案を受けることで、現場の職員が自力で業務に最適なツールを構築できます。

AppSheet の活用例としては、マップ連携で設置進捗をリアルタイム共有する選挙掲示板管理や、スマホ登録で集計を自動化する公用車予約・点検アプリがあります。専門業者に頼らず現場主導で即座に課題を解決する文化の醸成こそが、生成 AI を活用した自治体 DX をより強力に加速させる鍵となります。

NotebookLM活用: 膨大な過去資料・議事録を「組織の知能」に変える

自治体には、独自の条例や何百ページにも及ぶマニュアル、過去の議事録などが多数存在します。NotebookLM にこれらの資料を読み込ませて学習させることにより、職員が質問を投げかけるだけで、自治体独自のルールに基づいた的確な回答を瞬時に得ることが可能になります。 マニュアル検索の手間が省け、庁内横断的なナレッジの共有が飛躍的に進むことでしょう。

【事例】長野県佐久市に学ぶ Google Workspace を駆使した AI 活用術

ここでは、Google Workspace と生成 AI を活用して全庁的な業務改革を進めている長野県佐久市の事例を紹介します。

Google Workspace 導入の決め手は AppSheet のポテンシャル

長野県佐久市は、約 20 年間利用してきたオンプレミス型のシステムが時代に合わなくなり、抜本的な見直しに迫られていました。他社製品と比較検討した結果、コンテキストアウェアアクセスによる強固なデバイス・通信元制限が担保されることや、費用対効果の高さ、そして何よりAppSheet のような革新的なアプリ生成機能があることが決め手となり、Google Workspace の Enterprise Standard プランの導入を決定しました。

NotebookLM による問い合わせ対応の効率化

GoogleWorkspace を導入した佐久市では、市独自のルールやシステム操作マニュアルを NotebookLM に学習させ、職員の疑問に AI が即座に回答する体制を構築しました。具体的には、電子決裁をはじめとする新システム導入時の膨大なマニュアル類を NotebookLM に集約。職員が自力で必要な情報を瞬時に取得できる環境を整えたことで、外部ベンダーへの照会待ち時間が解消され、業務停滞の大幅な改善につながりました。

さらに、Google カレンダーによるスケジュール共有や Google Meet によるウェブ会議を徹底し、拠点間の移動時間や燃料費などのコスト削減も実現。こうした「職員を迷わせない環境づくり」が全庁的な業務効率化の基盤となっており、生成 AI と Google ツールを最大限に活用した自治体 DX のモデルケースとして注目を集めています。

失敗しない!自治体が生成AIをスムーズに導入する 3 ステップ

これから導入を検討する自治体が現場の混乱を避けつつ着実に定着させるための 3 つのステップを紹介します。

ステップ1:スモールスタートで「成功体験」を積み上げる

いきなり全庁で導入するのではなく、まずは特定の部署や効果が出やすい定型業務に絞って小規模導入を行うことが鉄則です。この段階で実務上の効果と課題を検証し、現場の反発を抑えながら段階的に対象範囲を広げることで、スムーズな定着が可能になります。

導入初期は DX 推進リーダーなど特定のチームから試行を開始し、日常のささいな困りごとを AI で解決する体験を重視しましょう。 「30 分かかっていた挨拶文作成が 3 分で終わった」といった具体的な成功事例を庁内報や Google Chat で発信し、組織全体に利便性を広めていくことが本格展開時の定着を後押しします。

ステップ2:自治体での活用に特化したプロンプトの配布

職員間の IT リテラシー格差を解消し、業務効率を底上げするには、プロンプトの標準化が不可欠です。自治体の実務に即したプロンプト集を共有し、誰もが成果を出せる「共通の型」を提供することで、確実な成功体験を積み上げ、現場への定着を促しましょう。

以下は、プロンプトの例です。

  • 議事録要約: 「会議の発言録から、決定事項・保留事項・次回までのタスクを抽出し、箇条書きでまとめてください」
  • 文章の平易化(広報向け): 「住民向けの通知文を、専門用語を使わずに中学生でも理解できる優しい表現に書き直してください」
  • 住民アンケートの分類: 「自由回答の内容を分析し、ポジティブ・ネガティブ・要望の3つの視点で分類・要約してください」

このようなプロンプト集を組織として共有することが、 生成 AI を一部の得意な人だけのツールに留めず、現場全体へ定着させるための大きな鍵となります。

ステップ3:専門家の伴走支援を活用し、全庁的な文化へ定着させる

自治体の DX は、ライセンスを契約して、「ツールを配布して終わり」になりがちなのが最大の落とし穴です。操作方法だけでなく、機密保持の考え方や「業務フローをどう変えるか」という本質的な課題を解決するためにも、外部の専門家による継続的な伴走型支援を活用することをおすすめします。

計画策定から実践的な活用研修まで、職員一人ひとりの不安に寄り添う支援を受けることで、 生成 AI を一過性のブームで終わらせない、全庁的なデジタル文化として定着させることができます。

TSクラウドでは、Google Workspace 導入に関するご相談を承っています。Gemini をはじめとする生成 AI を活用したい自治体の方は、お気軽にご相談ください。

生成 AI を自治体職員のパートナーに

生成 AI は、決して職員の仕事を奪うものではなく、限られたリソースの中で住民サービスの質を維持・向上させるための強力なパートナーです。

人口減少時代においては、単純作業を AI に任せ、職員は住民との対話や複雑な課題解決に注力していくことが求められます。セキュリティや IT リテラシーの壁を乗り越え、ときに専門家による適切な伴走支援を活用しながら、生成 AI を活かした自治体 DX の第一歩を踏み出しましょう。

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