自治体 × DX の最前線!Google Workspace からはじまる長野県佐久市の挑戦

概要

長野県の東部に位置し、浅間山の麓に広がる佐久市。人口約9万7,000人の自然豊かな街は、首都圏からのアクセスが良好で、医療体制も整っていることから移住希望者からの注目を集めています。佐久市民の生活を支える佐久市では、2025年3月より Google Workspace を全庁で導入。今回は、情報政策課の 西谷誠仁 様に佐久市が抱えてきた課題や Google Workspace 導入効果についてお伺いしました。

佐久市役所(長野県)

業種 地方自治体
規模 782名(2025.7.1現在)
利用サービス Google Workspace Enterprise Standard、Cloud Identity Premium

課題

  • 既存システムの限界
  • コミュニケーションや連携の難しさ
  • スケジュール調整や書類作成といった共通業務の非効率性

決め手

  • AppSheet の革新性
  • 強固なセキュリティ機能
  • 費用対効果

導入効果

  • カレンダー機能で職員の動きを可視化。会議調整にかかる時間を大幅に削減
  • AI にマニュアルを学習させ、問い合わせにかかる工数を削減
  • AppSheet を用いてアプリを開発。業務の可視化と効率化へ

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移住希望者が注目する街:自然豊かな佐久市の魅力


右の写真は以下の著作物を改変して利用しています。
「コスモタワー 空撮①(令和6年)」
https://openphoto.app/c/sakuphoto3313/photo/24498
2025年8月27日・佐久市・クリエイティブ・コモンズ・ライセンス表示 4.0 国際

― 長野県佐久市はどのような街ですか?

佐久市は長野県東部に位置し、浅間山の麓に広がる自然豊かな都市です。特筆すべきは、首都圏からのアクセスの良さですね。新幹線を使えば約70分、車でも約100分で来られます。

気候的には、国内トップクラスの晴天率と長い日照時間を誇り、年間を通じて湿度が低く、カラッとした気持ちの良い青空が広がる日が多いです。活断層がないことから地震のような災害リスクが低い地域でもあります。また市内には2つの総合病院と多数のクリニックがあることから医療体制も整っています。このような特徴から近年は人気の移住先としてメディアでご紹介いただく機会も増えていますね。

DX 推進の裏側:非効率的な時間の使い方からの脱却


(佐久市 情報政策課 の 西谷誠仁 様)

― Google Workspace を導入するに至った背景には、どのような課題がありましたか?

佐久市は、市町村合併以来約20年間オンプレミス型のシステムを使用していました。しかし、このシステムはほとんどアップデートされず、時代やニーズに合わなくなっていました。また情報の一方的な配信しかできず、双方向の伝達ができないという課題も抱えており、職員間コミュニケーションが円滑に進まないという現状に…。

この状況を打開するため、2021年に「佐久市 DX プロジェクト」を立ち上げ、行政全体の根本的な見直しに着手。その一環として、2022年度に各部署で業務量調査を実施したところ、どの部署でも共通して行われる「資料作成」や「職員間や外部との調整」といった業務に、非常に多くの時間を費やしていることがわかりました。

さらに、この調査結果を他の自治体と比較したところ、佐久市の職員はこれらの共通業務により多くの時間を割いており、効率的ではないという状況も判明。既存のシステムでは、どうしても時間をかけざるを得ないことがわかり、業務にかける時間を短縮し、効率を上げるには新しいグループウェアが必要だということになりました。

― Google Workspace 導入の決め手はありましたか?

業務量調査の結果を受け、新しいグループウェアの導入を検討し始めましたが、一般的な自治体で使われている従来のツールでは、「働き方が変わる」「業務効率が劇的に変わる」といった抜本的な変革は望めないと感じていました。単なる改善ツールではなく、業務量を半分や10分の1にできるような、ポテンシャルを持つツールを必要としていました。

そんな中、2023年夏頃に Google の担当者が市役所に来庁し、Google Workspace を紹介してくれました。特に、AI を活用してアプリケーションを開発できる「AppSheet」という機能に強い衝撃を受けました。佐久市の働き方を根本的に変えるだけのポテンシャルがあると感じ、この点が大きな決め手となりました。

競合他社製品との比較検討も行いましたが、Google Workspace は価格面でも優位性があり、AppSheet のような革新的なアプリ生成機能は、当時の他社製品にはありませんでした。

ワーキンググループが牽引した導入プロジェクト:全庁利用開始後の変化

― 導入プロセスはどのように進められましたか?

Google Workspace 導入プロジェクトは情報政策課が主導し、課内の情報システム係や DX 推進係と連携して開始。特に自治体は機密情報を扱うため、セキュリティ対策は情報システム係と協議しながら丁寧に行う必要がありました。2024年6月頃からトライアルを開始し、ネットワーク設定や導入準備に取り組みました。

同年10月には、Google Workspace の先行利用を開始。パイロットユーザーとして、総務部や企画部など各部署の職員やデジタルスキルが高いと見込まれた職員約40名が「DX ワーキンググループ」として Google Workspace を活用した実践的な業務改善に取り組みました。

11月には管理者トレーニングを、12月には一般ユーザーのトレーニングを開始しました。動画コンテンツを中心としたトレーニングを行いつつ、ざっくばらんに何でも質問できるよう TSクラウド の協力を得て「利活用相談会」を2回実施。これらのプロセスを経て、2025年3月に全庁利用を開始しました。利活用相談会は、利用開始後にもさらに1回実施しましたね。

― 本格運用以降、どのような変化がありましたか?

まず、全職員に「Google カレンダー」への予定登録を強く推奨したことで、「課長、今日どんな予定だろう?」という疑問がすぐに解決されるようになりました。お互いの動きを可視化できるようになり、これまで電話で行っていた会議の調整が不要になるなど、時間の使い方が大きく効率化されましたね。

「Google Meet」で WEB 会議を主催できるようになったことも大きいです。佐久市役所は、本庁舎だけでなく支所や出張所、市役所が運営する公民館や美術館といった拠点が多数あります。最も遠い拠点にいる職員は、本庁舎まで往復1時間の移動の必要がありました。しかし、会議を WEB に切り替えたことで移動が不要になり、移動時間や燃料費の削減に繋がりました

「Google ドライブ」も画期的ですね。佐久市では従来より庁内の DX やペーパーレスを推進してきましたが、紙の資料をデジタル化することで、次はデータをどう保管するかという問題に直面していました。Google ドライブならセキュアな環境で、しかも大容量のデータを保管できるので、非常に役に立っています。

― 数ある変化の中でも特に大きな変化はありますか?

やはり Gemini や NotebookLM といった AI 、特に NotebookLM による変化が大きいですね。最近、佐久市では電子決裁や勤怠管理などに新しいシステムが導入され、何百ページもある膨大なマニュアルが作られました。これらのマニュアルを NotebookLM に学習させることにより、職員は質問を投げかけるだけで、システム自体のマニュアルと佐久市独自のルールに基づいた的確な回答を瞬時に得られるようになりました。今までは、使い方がわからないと各システムのベンダーに問い合わせを行い、欲しい回答を得るのに時間がかかりがちだったのですが、この状況も大きく改善されましたね。

NotebookLM は、クローズドな情報を扱う市役所の業務との親和性が高いので、特に活用が進んでいます。 Google Workspace の有料プランは、Gemini や NotebookLM など AI 機能に学習データが利用されないというセキュリティ上の保証がありますよね。この保証により、自治体の業務で扱うクローズドな情報を AI に学習させ、業務効率化に活用できるという大きなメリットも得られました。

― 導入の決め手になった AppSheet はどのように活用していますか?

AppSheet は、業務アプリケーションの内製化で活用しています。2025年4月の佐久市議会議員選挙では、選挙ポスターを貼る掲示板の管理アプリを試行的に開発。掲示板を設置する場所の情報を Google スプレッドシートに入力し、Google マップと連携させることで、掲示板を設置する業者の進捗管理や、立候補者への正確な位置情報提供が可能となり、選挙業務の効率化に貢献しました。

Enterprise だからこそ拓ける可能性:高度なセキュリティで実現する自治体の業務

― 佐久市では「Enterprise Standard」エディションを採用されています。Enterprise ならではの活用術について教えてください。

自治体として機密情報を扱う上で不可欠となる、強固なセキュリティが担保されることは、プラン選定で最も重要な要素でした。特に Enterprise エディションで利用できる「コンテキストアウェアアクセス」機能によって、 Google Workspace を利用できるデバイスや通信元を細かく制限することが可能となりました。セキュリティ対策が十分ではない場所での使用を防止できるので、とても助かっています。

Google Workspace のさらなる活用:今後の展望

― 今後の展望について教えてください。

今後の展望としては、Gemini や NotebookLM など AI の利活用が大切だと考えています。AI に任せられるものは AI に。職員が AI をうまく活用できるようさまざまなコンテンツを作って庁内に発信しています。たとえば、NotebookLM の活用を推進するような紙芝居形式のコンテンツや PR 動画など。今後はこれらの発信に加え、勉強会や AI に関する疑問や活用事例を議論できるチャットスペースの開設も計画しています。


(AI で作成した紙芝居形式のコンテンツを紹介する西谷様)

AI 利用に関しては、基本方針をしっかり定めていますが、用途は絞らず、自由な発想で活用できるようにしています。ただ活用の度合いが職員間で二極化しており、AI の利用に抵抗感や苦手意識のある職員へのサポートが課題だと認識しています。個別相談や勉強会を通じて、職員一人ひとりに寄り添った支援を行っていきたいですね。

― 市民サービスへの展望についてもお聞かせください。

市民の皆様に対しても、今後さまざまな形で Google Workspace の機能を活用したサービスの仕組みを検討していきたいと思っています。たとえば、ごみの分別について住民の問い合わせに自動で回答してくれるチャットボットや、子育てに関する情報を AI が音声で提供するサービスができないかといったことを考えています。Google Workspace は、職員の働き方だけでなく、市民の暮らしをより便利にするための強力な基盤になると確信しています。

Google Workspace の導入を検討している自治体へ

― 最後に Google Workspace の導入を検討している自治体へのメッセージをお願いします。

日本という国全体で人口が減少し、それに伴い行政を担う職員数も減っていく中で、行政サービス自体を減らすことは非常に困難です。この状況を乗り切るためには、業務効率化が不可欠。人海戦術ではカバーできない時代が目前に迫っていると思います。

だからこそ、業務効率化に貢献するツールが必要となりますが、ツールは導入してすぐに使いこなせるわけではありません。職員が新しい環境に慣れるための時間が必要です。「困った」と感じてから導入するのではなく、中長期的な視点を持って、なるべく早く検討し、導入を進めることをおすすめします。

法人紹介

法人名 佐久市役所
事業内容 市民サービス
職員数 782名(2025.7.1現在)
概要 市民の快適な生活を支えるため、多岐にわたる事業を展開。住民票や戸籍の管理といった窓口業務、ごみ収集や上下水道の整備などの生活インフラ維持、子育て支援や高齢者福祉などの福祉サービス、学校教育、地域経済の活性化、防災・防犯対策など。これらを通して、市民の安全・安心を確保し、地域社会の発展に貢献している。


※記事の内容は取材当時のものです。