【情シス向け】ファイルサーバーから Google Workspace への移行戦略!技術的課題をクリアする権限設計とセキュリティ要件ガイド
コラム更新日:2025.07.18
「社内サーバーが老朽化し、運用負荷は増す一方だ」 「ランサムウェア対策など、既存のセキュリティに限界を感じている」 「多様化する SaaS を統合管理し、セキュアなリモートワーク環境を整備したい」このような課題をお持ちの中堅・中小企業の情報システム部門担当者は少なくないのではないでしょうか。長年企業の情報を支えてきたオンプレミスのファイルサーバーは、現代のビジネススピードやセキュリティ要求に応えることが難しくなっています。
この記事では、ファイルサーバーからの移行先として有力な Google Workspace に焦点を当て、数百名規模の企業が移行を成功させるための具体的な戦略を、技術的・管理的な観点から徹底解説します。
本記事を最後までお読みいただくことで、移行プロジェクトを成功に導くための具体的なロードマップと、自社に最適なプラン選定の判断基準が明確になります。
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執筆・監修:TSクラウド編集部
Google Workspace 正規代理店のうち、最も高いランクのプレミア資格を持っています。業界歴 17 年、延べ 3,500 社以上へのサービス提供で培った知識と経験を活かし、Google Workspace の情報を発信しています。
脱・オンプレファイルサーバーが加速。今、Google Workspace を選ぶべき戦略的理由とは
近年、多くの企業がオンプレミスファイルサーバーからの脱却を進めています。その背景にあるのは、単なるコスト削減やサーバー管理業務からの解放といった「守りのIT」の課題解決だけではありません。
最大の理由は、ビジネス環境の劇的な変化です。リモートワークの常態化、巧妙化するサイバー攻撃、そしてDX推進の加速といった変化に対し、従来のファイルサーバーでは対応が追いつかなくなっています。
この状況で Google Workspace を選択することは、以下の3つの点で「攻めのIT」を実現する、戦略的な一手と言えます。
- ゼロトラストに基づいた高度なセキュリティ:Google の堅牢なインフラを基盤とし、アクセス状況に応じて動的な制御が可能なため、場所を問わず安全なデータアクセス環境を構築できます。
- コラボレーションの最大化:ファイルを「共有」する文化が根付くことで、部門間の壁を越えた情報連携が活性化します。チャットやビデオ会議、共同編集機能がシームレスに連携し、生産性を飛躍的に向上させます。
- データ活用基盤の構築:クラウドに情報資産を集約することで、AI による高度な検索や各種クラウドサービスとの連携が容易になります。これは、将来的なデータドリブン経営への重要な布石です。
ファイルサーバーの移行は、もはや単なるインフラ刷新ではありません。企業の競争力を左右する、経営課題解決のための重要な戦略なのです。
ファイルサーバーの機能を Google Workspace でどう代替する?
移行を検討する上で、情シス責任者が最も懸念するのは「既存のファイルサーバー運用を、本当に Google Workspace で再現できるのか?」という、技術的な実現性でしょう。ここでは、代表的な4つの技術的課題とその解決策を具体的に解説します。
➤アクセス権の再現性
ファイルサーバー移行で最も重要なのが、アクセス権限の設計です。Windows サーバーのNTFSで設定した複雑なアクセス権を、Google Workspace の「共有ドライブ」でいかに再現するかが鍵となります。
これには、Google Workspace Migrate などデータ移行のための専用ツールを利用し、もともとの権限設計を、Google Workspace の権限モデルに合わせていく必要があります。
Google Workspace では、以下の5つのシンプルな権限レベルが用意されています。
| 権限レベル | 可能な操作 | 主な役割 |
|---|---|---|
| 管理者 | メンバーの管理、共有ドライブの設定変更、ファイルの全操作 | 情シス、部門長、プロジェクトオーナー |
| コンテンツ 管理者 |
ファイルの追加、編集、移動、削除 | プロジェクトリーダー、チームリーダー |
| 投稿者 | ファイルの追加、編集 | 一般メンバー |
| 閲覧者 (コメント可) |
ファイルの閲覧、コメント | 関連部署のメンバー |
| 閲覧者 | ファイルの閲覧のみ | 情報共有のみのメンバー |
移行プロセスでは、元のサーバーで利用していた権限を、Google Workspace の権限に適切に対応づけるためのマッピングを行い、アクセス権限を継承させることが必要です。
アクセス権設定のポイント
既存のアクセス権をそのまま移行しようとすると、かえって複雑化する場合があります。重要なのは、この機会に「実際の業務フローに合わせた、シンプルで分かりやすい権限体系に再設計する」という視点です。移行前にデータの棚卸しを行い、部署やプロジェクト単位で必要な権限を見直すことが、成功への近道となります。
➤Active Directory との連携
Active Directory (AD)でユーザー情報を管理している場合、アカウント管理の二重化は避けたいところです。この課題は、Google が無償で提供する「Google Cloud Directory Sync (GCDS)」で解決できます。
GCDS は、AD 上のユーザーやグループ情報を、設定したルールに従って Google Workspace へと同期するツールです。これにより、情シス担当者は従来通り AD で ID を管理するだけで済むため、管理負荷を大幅に削減できます。
GCDS設定のポイント
- 同期対象の明確化
- AD の特定の OU(組織単位)に所属するユーザーのみを同期対象とするなど、範囲を明確に定義します。
- 無効化されたアカウントや特定の属性を持つアカウントを同期対象から除外し、不要なライセンス消費を防ぎます。
- GCDS には AD のパスワードを同期する機能もありますが、セキュリティ要件を慎重に検討する必要があります。SAML 認証による SSO(シングルサインオン)の構成が、よりセキュアで利便性の高い選択肢となる場合も多いです。
- 同期設定が完了したら、必ず「シミュレーションモード」で実行し、意図しない変更(大量削除など)が発生しないか事前に確認します。
➤APIの活用で既存の業務システムとの連携は可能?
Google Workspace の強みは、その高い拡張性です。Google Apps Script というプログラム言語をもっており、各サービスから公開されている豊富なAPIを利用することで、既存の業務システムと連携させ、業務プロセス全体の自動化を図ることが可能です。
【連携ユースケースの例】
- 帳票の自動保管
- 経費精算システムから出力されるPDF形式の請求書を、API経由で自動的に Google Drive の指定フォルダに格納し、ルールに基づきリネームする。
- 稟議システムで申請が承認されたら、その証跡ドキュメントを Google Drive に保存し、関係者へ Google Chat で通知する。
- Google Drive に保管された売上データを、Google BigQuery などに定期的に連携し、BI ツールで可視化・分析する。
自社でのプログラム開発が難しい場合でも、サードパーティ製の iPaaS製品を利用すれば、ノーコード・ローコードで連携を実現できます。
➤【製造業特有】CADデータや大容量ファイルの扱い
製造業にとって、数GBに達する CAD データや設計図面といった大容量ファイルの扱いは死活問題です。Google Workspace は、こうしたニーズにも十分対応します。
- 容量とファイルサイズ
- Business Standard 以上のプランでは、ユーザーあたり 2TB 以上の大容量ストレージが提供されます。1日にアップロードできるデータ量は 750GB、1ファイルあたりの最大サイズは 5TB と、事実上ファイルサイズの制限を気にすることなく利用できます。
- 大容量ファイルを扱う上で強力な武器となるのが「パソコン版 Google ドライブ」です。これには2つの同期モードがあります。
- ストリーミング:ファイルの実体はクラウド上に置き、PCにはショートカットのみを作成します。ファイルを開くと一時的にダウンロードされますが、PCのディスク容量を圧迫せず、大容量データを扱う際の基本となるモードです。
- ミラーリング:クラウドと PC のファイルを常に同期します。オフラインでの作業が多い場合や、特定のアプリがローカルファイルパスを要求する場合に有効です。パソコンのストレージを多く消費します。
移行プロジェクト計画の策定|移行を成功させる5つのフェーズ
技術的な実現性のめどが立ったら、次は移行プロジェクトの計画策定です。数百名規模の移行を無計画に進めると、必ず混乱が生じるでしょう。プロジェクトを成功に導くためのステップをご紹介します。
➤【フェーズ1】現状評価と要件定義
- データ棚卸し
- 専用ツールなどを活用し、ファイルサーバー内のデータを可視化します。(総データ容量、ファイル数、フォルダ階層、ファイル種別、最終アクセス日時、重複ファイルなど)
- 要件定義
- 棚卸しの結果を基に、新しい環境で実現すべき要件を定義します
- 例)アクセス制御、ログ監査期間、情報漏洩対策などのセキュリティ要件。共有ドライブの命名規則などの運用要件
- 棚卸しの結果を基に、新しい環境で実現すべき要件を定義します
➤【フェーズ2】技術検証
計画段階で想定した方式が実用に耐えるかを検証するフェーズです。情報システム部門など、小規模な技術検証(PoC)を実施します。
- 検証項目
- アクセス権の妥当性、アカウント同期の動作、大容量ファイルの通信速度、パソコン版ドライブの使用感、既存アプリとの連携など。
- フィードバック収集
- テストユーザーから課題を収集し、本格展開に向けた計画の修正や、ユーザー向けマニュアルの改善に役立てます。
➤【フェーズ3】移行方式の選定
実際のデータ移行ツールを選定します。移行ツールには、Google 製ツール、サードパーティ製ツールのほか、自社開発といった選択肢があります。
Google 製のツール例
主に小規模な移行を前提とするツールとして、データ移行(新規)が用意されています。
一方、大規模な移行を行う場合は Google Workspace Migrate が利用できます。ツール自体は無償ですが、Migrate を動作させるためのシステム要件を満たす環境の用意(仮想サーバー等)に、費用がかかります。
関連記事:Google Workspace Migrate とは?データを安全かつ効率的に移行するポイント
サードパーティ製のツール
サードパーティ製のツールは、豊富な機能を揃えたものがあり複雑な権限移行、差分同期、スケジューリング、レポート等が充実しています。その分利用のコストが嵩む場合も多いため、予算を多めに確保する必要があります。
API活用による自社開発
特殊なシステム連携や、非常に複雑な移行要件がある場合に検討が必要となるのが、API連携を利用した自社開発です。独自要件に対応可能な分、開発コストや十分な期間が必要となります。高度な技術力が求められるのも、このパターンの特徴でしょう。
自社の要件や予算に合わせて、最適な方式を選択しましょう。
➤【フェーズ4】段階的な本番移行とデータ同期
全社一斉の「ビッグバン移行」はリスクが高いため、部署単位やプロジェクト単位でスケジュールを区切る「段階的移行」がおすすめです。
- 先行移行:まずは情報システム部門から本番移行を開始します。
- 部門展開:次に、関連部署やクラウドツールへの抵抗が少ない部署へと展開します。
- スケジュール調整:各部門の業務繁忙期を避け、週末などを利用して移行作業を計画します。
- データ同期:移行期間中は、移行ツールの「差分同期」機能で、夜間などにファイルサーバーとの差分を同期します。最終切り替え直前に最後の同期を実行することで、データの整合性を保ちます。
Google Workspace へのデータ移行に関しては、以下の記事でもご紹介していますので、ご確認ください。
関連記事:はじめての Google Workspace データ移行。知っておくべき基本と注意点
➤【フェーズ5】運用体制の構築と権限移譲
移行完了後は、新しい運用体制を構築します。ここでの目標は、情シスへの問い合わせを最小限にし、持続可能な運用を実現することです。
そのポイントとなるのは「権限移譲」です。各部署の共有ドライブの「管理者」権限を、情シスではなく各部門長やリーダーに付与します。これにより、メンバー追加などの日常的な管理を現場で迅速に行えるようになります。
この体制をつくることで、情シスの役割は、個別の依頼に対応する「作業者」から、全社的なガバナンスを設計し現場を支援する「ガバナー」「アドバイザー」へとシフトします。
【プラン比較】Business Standard で十分?情シスが判断すべきセキュリティ機能
Google Workspace への移行を決めるうえで避けて通れないのが、「結局、どのプランを選べばいいのか?」です。特に、「Business Standard」と上位プランの選択は、コストとセキュリティのバランスを考える上で非常に重要です。情シスが判断すべきセキュリティ機能の観点から、各プランを比較します。
➤Business Standard の基本機能|共有ドライブ、基本的なセキュリティ設定
Business Standard は、多くの企業にとってコストと機能のバランスが最も良いプランです。ファイルサーバーの代替に必要な共有ドライブ、2段階認証プロセス、基本エンドポイント管理、Gmail のセキュリティサンドボックスといった基本機能を網羅しており、「まずはクラウド化を実現したい」という企業には十分な選択肢です。
➤Business Plus では、電子情報開示(Vault)、高度なエンドポイント管理も可能
Business Plus にアップグレードすると、以下のような機能が利用できるため、コンプライアンスとガバナンスを強化できます。
- Google Vault
- 訴訟や監査の際に、メールやドライブのデータを法的に保持し、検索・書き出しができます。法的要件への対応が必要な企業には必須の機能です。
- PCやスマートフォンに対し、「画面ロックの強制」「OSバージョンのチェック」といった、より詳細なセキュリティポリシーを強制できます。デバイス紛失時の情報漏洩リスクを大幅に低減します。
セキュリティ以外の機能も比較したい場合は、以下の記事をご確認ください。
関連記事:Google WorkspaceのBusiness Starter,Standard,Plusを比較
➤Enterprise なら最高レベルのセキュリティを実現可能
Enterpriseプランは、ゼロトラストセキュリティを本格的に実現するための最高レベルの機能を提供します。
- データ損失防止(DLP)
- ファイル内の機密情報(マイナンバーなど)を自動検知し、社外共有や印刷をブロックします。
- ユーザーの状況(場所、デバイスなど)に応じてアクセスを動的に制御します。「社内ネットワーク以外からはアクセスをブロックする」といった高度な制御が可能です。
自社のセキュリティポリシーで、これらのプロアクティブな脅威対策が求められる場合は、Enterprise プランが必須の選択肢となります。
すべてのプランを網羅的に比較したい場合は、以下の記事がおすすめです。
関連記事:Google Workspace のプランを比較!プランの特徴や選び方のポイントを解説
移行後の統合的管理とセキュリティ運用
新しい IT インフラを最大限に活用するためには、移行後の運用ポイントも押さえて利用を検討したいところです。
➤管理コンソール活用術:監査ログの監視とアラート設定
Google Workspace の「管理コンソール」は、組織の利用状況とセキュリティを可視化する司令塔です。特に「監査ログ」は、不正の兆候を早期に発見するために不可欠です。
重点的に管理するべき監視項目
- 重要な共有ドライブの共有設定変更
- 機密ファイルのダウンロード
- 大量のファイル削除
- 不審なログイン試行
- 管理者権限の変更 など
これらの重要なイベントは、管理コンソールの「アラートセンター」で、管理者に自動でメール通知が飛ぶように設定しておくことがきわめて重要です。
➤セキュリティポリシーの自動適用: DLPルールやコンテキストアウェアアクセスの設定例
Enterprise プランを導入した場合、その機能を活用してセキュリティ運用を自動化することが、情シスの負荷軽減に直結します。人の判断を介さずにポリシーを自動適用することで、ヒューマンエラーを防ぎ、一貫したセキュリティレベルを維持できます。
- DLPルールの設定例
- 【条件】ファイル内に「マイナンバー」が含まれる → 【アクション】組織外との共有をブロックし、管理者に警告通知を送信。
- 【条件】会社が管理していないデバイスからのアクセス → 【アクション】GmailとGoogle Driveへのアクセスをブロック。
➤ヘルプデスク業務の効率化:ユーザー向けFAQの整備とトレーニング計画
新しいツールの導入直後は、ユーザーからの問い合わせが増加します。これを防ぎ、ユーザーのセルフサービス化を促進するために、以下の施策が有効です。
- FAQサイトの整備
- Google サイトなどを活用し、「共有ドライブの作り方」といった基本的な操作方法をまとめたFAQサイトを構築します。これだけで問い合わせは大幅に削減できます。
- 全社員向けの説明会を実施し、機能だけでなく、「こう使うと業務が楽になる」というメリットやセキュリティ上の注意点を明確に伝えます。
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Google Workspace への戦略的移行で、攻めのIT部門へ
ファイルサーバーから Google Workspace への移行は、単なるサーバーリプレイスという枠を遥かに超えた、企業変革のポテンシャルを秘めています。
日々のバックアップや障害対応といった「守りのIT」業務から解放されることで、情報システム部門は、DX推進やデータ活用といった、企業の未来を創造する「攻めのIT」に、より多くのリソースを注げるようになります。
移行には専門的な知見も必要となるため、信頼できるパートナー企業に相談しながら進めることも、成功の確度を高める有効な手段となるでしょう。ファイルサーバー移行や Google Workspace に関してのお困りごとがございましたら、TSクラウドまでお気軽にお問い合わせください。

